LOGIN重厚な石造りの扉を押し開くと、中はひんやりとした空気に満たされていた。
天井の高い廊下には、かつて美しく飾られていただろう壁画が薄れ、朽ち果てた柱がところどころ崩れている。
「……まるで時間が止まったみたい」セリスは呟いた。
「だが、足跡がある。誰かが最近ここを通ったな」ライルが床に目を落とす。
「帝国か?」カイが警戒する。
そのとき——
「来たか……」
奥の闇から、低い声が響いた。
暗がりの中から現れたのは、黒い軍服に身を包んだ男だった。
「ヴァルドリッヒ・カインツ……!」
ライルが警戒を強める。
ヴァルドリッヒ・カインツ——帝国最強の剣士にして、かつてエルセリア王国最後の王と刃を交えた男。その冷たい眼差しが、じっとセリスを見据えていた。
「やはり貴様が来たか。記憶の継承者よ」
ヴァルドリッヒの手がゆっくりと剣の柄にかかる。
「……ここで貴様を討てば、余計な波乱はなくなる」
「……!」
セリスは思わず息を呑んだ。
彼との戦いを避けることはできない——。
静寂を切り裂くように、ヴァルドリッヒの剣が抜かれた。
大聖堂の廊下で、宿命の戦いが始まる——。
冷えた大気の中に、ヴァルドリッヒの鋭い眼差しが光る。「貴様がどこまで記憶を取り戻したか……試してやろう」
鋭い閃光が走った。ヴァルドリッヒの剣が一瞬で空を裂き、セリスの目の前に迫る。
「くっ……!」
セリスは咄嗟に身を引く。しかし、間髪入れずに繰り出される追撃。重く、鋭く、無
@ ゼルヴァニアの戦士 影の魔術師の表情にわずかな動揺が走る。「……獣人か」 影が蠢き、警戒するように後退する。 レオン・フェルガードはその場に堂々と立ち、獣のような鋭い目で魔術師を睨みつけた。彼の銀灰色の毛並みが月光に照らされ、漆黒の影と対照的に輝いている。「ゼルヴァニアを守る者として、この地で好き勝手はさせん」 低く響く声とともに、彼は大剣を構える。その動きには迷いがなかった。「ほう……獣人風情が、私の影に立ち向かうつもりか?」 影の魔術師が嘲るように笑うと、再び影の鎖を伸ばし、レオンを絡め取ろうとする。 だが——「遅い」 レオンの足が地を蹴り、次の瞬間には影の間をすり抜け、魔術師の目前に迫っていた。「なに……!?」「——遅すぎる!」 レオンの大剣が唸りを上げ、影を切り裂く。闇が弾け、魔術師の身体が衝撃で弾き飛ばされた。「ぐっ……!」 影の魔術師は地面を転がりながら立て直すが、レオンの猛攻は止まらない。「セリス!」 レオンが叫ぶ。「影の核を探れ! 俺が時間を稼ぐ!」 セリスはすぐに状況を理解し、目を閉じる。そして、王の血が持つ能力——記憶の継承を使い、影の流れを探った。 (どこかに……必ず……) その時—— 彼女の脳裏に、一瞬の光景が閃いた。 ——影の中心、魔術師の左手の奥に、小さな核が脈打つように存在している——「見つけた……!」 セリスは目を見開き、ライルとミアに向
ゼルヴァニア国境付近——帝国軍の奇襲 @現れた帝国の刺客「セリス・エルセリア……生きていたとはな」 男の低い声が森の静寂を切り裂く。 セリスは息をのんだ。彼の口ぶりから察するに、単なる帝国の兵士ではない。だが、どこかで見た記憶はない。「……お前は誰?」 問いかけるセリスに、男は薄く笑った。「名乗る必要はないさ。どうせ、お前たちはここで死ぬ運命なのだからな」 次の瞬間、男の手にある短剣が鈍く光を放つ——そして、まるで影が生き物のようにうごめき始めた。「っ……!」 ミアが即座に魔力を高める。カイも身構え、ライルは剣を握りしめる。「影の魔法……!」ミアが低く呟いた。「こいつ、ただの兵士じゃない……帝国の特殊部隊かも!」 影がまるで獣のような形を取り、男の周囲を漂い始める。普通の魔法とは明らかに違う、不吉な気配が辺りを包む。「さて、準備はいいか?」男は静かに言い放つと、影が突然飛びかかった。「来る!」ライルが叫ぶ。 戦闘が始まった。 男の影が蛇のように伸び、セリスたちを襲う。ライルが大剣で叩き払おうとするが、影は実体を持たず、まるで霧のようにかわしていく。「物理攻撃が効かない……!?」ライルが歯ぎしりする。「私に任せて!」ミアが杖を掲げ、光の魔法を発動させる。「《ルーメン・フラッシュ!》」 閃光が闇を貫き、影が一瞬消し飛ぶ。しかし、男は動じることなく短剣を振るい、新たな影を生み出した。「小賢しいな」 その影がミアへ向かって放たれる——「させるかよ!」 カイが素早くミアを押しのけ、短剣を投げる。しかし、影は短剣をすり抜け、さらに形を変
@ ゼルヴァニア国境付近——帝国軍の奇襲 夕暮れが近づき、空が赤く染まり始めたころだった。セリスたちはゼルヴァニア王国の国境を目指し、森の中の獣道を進んでいた。「もうすぐ国境だな……帝国の patrol(巡回部隊)がいなければいいが」 先頭を歩くカイが、周囲を警戒しながらつぶやく。「ここまで来たら慎重に動くべきだね。帝国の軍が近くにいる可能性は高い」 ミアが杖を握りしめながら答える。 ライルは無言で大剣の柄に手をかけた。彼の表情は険しい。セリスもまた、緊張感を覚えながら歩を進めた。 だが——その刹那、森の奥から殺気が奔った。「伏せろ!」 ライルの叫びと同時に、無数の矢が空を裂き、降り注ぐ。セリスたちは咄嗟に身をかがめ、木々の陰に隠れる。「くそっ、罠か!」 カイが歯噛みしながら周囲を見渡す。すでに森のあちこちに黒い鎧をまとった兵士たちの姿が浮かび上がっていた。帝国軍の奇襲だった。「見つけたぞ、セリス・エルセリア」 低く響く声が森にこだまする。前方に現れたのは、一人の男——漆黒の甲冑をまとった帝国の騎士隊長だった。その手には血に濡れた長剣が握られている。「このまま大人しく捕まれば、無駄な血は流さずに済む」 嘲るような笑みを浮かべる隊長に、セリスは剣を構えながら答えた。「あなたたちに従うつもりはない!」「そうか、ならば——力ずくで捕らえるまでだ!」 帝国兵たちが一斉に攻撃を仕掛けてくる。セリスは剣を振るい、ライルが前衛で敵の攻撃を受け止める。カイは素早く動き回りながら敵の注意を引き、ミアは魔法で支援する。 しかし、帝国軍の数は多く、次々と兵士が現れ包囲網が狭まっていく。「まずいな……!」 カイが焦りの声を上げたその時——
@ 新たな道標 夜風が静かに吹き抜ける。 セリスたちは《王の書庫》を脱出し、闇に包まれた森の中を進んでいた。「はぁ……ようやく一息つけるな」 カイが木にもたれかかりながら息をつく。「ええ……だけど、帝国の追手がすぐに動くはずよ。あまりのんびりしている暇はないわ」 ミアが慎重に周囲を見渡す。 セリスもまた、心を落ち着かせようと深呼吸した。 《王の書庫》で得たもの——それは新たな記憶と、王家に託された最後の使命。 だが、その全てが明確に理解できているわけではない。「セリス」 ライルが静かに声をかける。「お前は……何を思い出したんだ?」 彼の問いに、セリスは迷わず答えた。「……この大陸の真の歴史と、王家が背負っていた役目よ」 彼女の瞳には迷いはなかった。「王家は代々《記憶の継承》を通じて、隠された真実を守ってきた。でも、それだけじゃない……最後の使命——それは、この世界の均衡を取り戻すこと」「均衡……?」 ライルが眉をひそめる。「帝国は、ただ強大な力を求めているだけじゃない。この世界の根幹に関わる何かを探している。そして、それは王家の記憶と深く関係しているの」「……なるほどな」 カイが腕を組みながら言う。「つまり、帝国は単なる侵略だけじゃなく、もっとヤバいことを企んでるってわけだ」 セリスは静かに頷いた。「そうよ……私たちは、まだその全てを知らない。だからこそ、次に向かうべき場所があるわ」「どこへ行くつもりなの?」 ミアが尋ねる。 セ
帝国最強の剣士 ヴァルドリッヒ・カインツ。 かつてエルセリア王国最後の王と剣を交えた男。 帝国の最高戦力と称される剣士が、冷徹な眼差しでセリスたちを見据えていた。「……逃げるつもりはないようだな」 低く響く声が、書庫の静寂を破る。 ライルが即座に剣を構えた。「逃げる必要はない。お前をここで止める」「ほう?」 ヴァルドリッヒはわずかに目を細め、ゆっくりと剣を抜いた。 長大な黒刃が燭台の光を反射し、鋭い殺気が周囲に広がる。「……覚悟はあるようだが、問題はお前ではない」 彼の視線がセリスに向けられる。「記憶を継ぐ王女——お前が、どこまで真実にたどり着いたのか。試させてもらおう」 ヴァルドリッヒが一歩踏み出した瞬間、空気が張り詰める。「——来るぞ!」 ライルが剣を振りかざし、ヴァルドリッヒへと斬りかかる。 しかし—— ガキィン! 刹那の交錯。 ヴァルドリッヒは片手で受け止めると、わずかに剣をひねり、ライルの体勢を崩す。「くっ……!」 ライルが咄嗟に後退すると、ヴァルドリッヒは追撃せず、剣をゆっくりと下ろした。「悪くない。だが——」 次の瞬間、彼の姿が消えた。「——速い!」 ライルが叫ぶ間もなく、ヴァルドリッヒはセリスのすぐ目の前に現れた。「ッ……!」 セリスはとっさに後退し、書物を抱えたまま剣を構えた。 ヴァルドリッヒの目が細められる。「その剣……エルセリア王家のものか」 セリスは息を
*** 王家の遺産 静寂に包まれた地下通路を進む。先ほどまでの戦いの喧騒が嘘のように、そこにはひんやりとした空気と、わずかに漂う湿った石の匂いが満ちていた。「しかし……」 カイがぼそりと呟く。「このまま行けば、本当に抜け出せるのか?」「抜け出すだけじゃないわ。この道は、王家の秘密を守るためのものよ」 ミアが通路の壁を指でなぞりながら言う。 セリスもその言葉に頷く。「父上は、王族が危機に陥ったとき、この道を使えと言っていた。ただの逃げ道じゃない……“使命を果たす者のための道” だと」 そう言いながら、セリスは前方を見据えた。 ——この先に何があるのか。それを確かめなくてはならない。 やがて、一行の前に巨大な扉が現れた。 古びた金属でできた二枚扉。そこには、王家の紋章が刻まれていた。「これは……」 ライルが眉をひそめる。「明らかに、ただの出口じゃないな」「そうね。むしろ、外へ繋がるものではなく、何かを守るための扉……」 ミアが慎重に観察しながら言う。 セリスは扉に手をかざした。 その瞬間—— ふっと、意識が遠のく感覚に襲われた。 王の記憶 ——静かな書庫の中、父王は一冊の古い書を手に取っていた。「セリス……王の使命を忘れるな」 その声は優しくもあり、厳しくもあった。「王家に受け継がれる力は、ただの血筋ではない。我らは“歴史を繋ぐ者”なのだ」 父王は書を開き、そこに記された文字を指でなぞった。「真実を知り、それを次代へと伝えること。それこそが、エルセリア王家に課せられた責務……」 そして——『この扉の先にあるものを、決して帝国の手に渡してはならぬ』 決意「……っ!」 セリスは急に意識を取り戻し、息をのんだ。「セリス?」







